『体が冷えちゃう。
そろそろ帰り――』

由愛がそこまで言いかけた時、何かが草を踏む音がした。

段々こっちに近付いてくる。




『ぇ、キャ?!
ちょっと何よ!!』

耳を澄ましていると、突然由愛が悲鳴をあげた。


「由愛?!
どうし………って、犬?」


急いで顔を向けた私の目に飛込んできたのは、座っている由愛にじゃれついているダックスフンド。


どこから来たんだろ?





『はッ?い、ぬ…?』

冷静さを取り戻したのか、落ち着いた由愛の声。


「うん。
ダックスフンドだよ」

『……もうっ!!
驚かせないでよね!!』

由愛は犬相手に逆ギレ。

暗いから分からないけど、多分顔は真っ赤なんだろう。




その時――

『……リリ?
あ、いたっ!!ごめんなさい!!』

慌ててこっちに走ってくる人影が。


『もう、ダメじゃない!!
本当にごめんなさい!!噛んだりしてませんか?!』

必死に謝る女の子。


この声、どこかで…?

そう思った時、ある景色が浮かび上がった。



空虚を思わせる真っ白で統一された部屋。

仕切られたベッド。



そんなに遠くない。
それは私が…入院していた頃の記憶。