傘が、ない。




最悪だ。







今日の天気予報、晴れだったはずなのに。
降水確率も30%だったはずなのに。
半分もないんだから、降らないと思ったのに。






ですが、現在。
素晴らしい大雨。



私、姫川藍羅は、ここ、豊河高等学校の玄関で、立ち尽くしてます。
だって、傘、ないし。





人見知りの私には、傘を誰かから借りる勇気もないしね。どうしようかな。




「はぁ………………」
そう、溜め息をついたときだった。
「藍羅―っ!!」
誰かが私に向かって走ってくる。
ん?あれは…………
「ぁ、七瀬!」
「傘、ないんでしょ」
にっこりと微笑んで私を傘の中に入れてくれたのは幼なじみの笹原七瀬。
七瀬は、頭もいいし、ぱっちり二重ですっごく可愛い子。私とは全然違う。同じ人間じゃないんだね、きっと。そうだ。

「藍羅、せっかくの可愛い顔が濡れたら台無し………………、あ、水もしたたるいい女ってやつか!」
「可愛くないし、いい女でもないよ!?」

私がそう言ったら、七瀬は小さく溜め息をついた。なんでだろ?

「まぁ、帰るよ?」
「あ、うん」

そう言って、玄関を出ようとしたときだった。