「でも、待ってなくていいよ。君は君の幸せをつかんでほしい。縛りつけるのは嫌なんだ。」


左手にはめられた指輪を見ながら久保さんは言った。


「わかった。」


涙はなかった。

離れる話をしても。


「泣くのは今日で最後だからね。」って言ってから、私も久保さんもお互いの前で涙を見せることはなかった。



「ねぇ、見て。夕日が沈む・・・」


私は地平線にゆっくり沈む夕日を指さした。


「ちゃんと見てる?」


私は何も言葉を発しない久保さんを見た。


久保さんは夕日じゃなくて私を見ていた。


いつもの優しい笑顔で・・・


そしてゆっくり私に唇を近付けた。



「二十代の君にとって、三十代の俺のこういう行動っておじさんっぽい?」



「うん、まぁね。」



「まぁ俺たちの青春時代の恋愛って、今の韓国ドラマみたいなもんだったからさ。」


そういえば、お店の常連の太田さんもそんなことを言ってたな・・・


だから今の三十代、四十代は韓国ドラマにハマるんだって。



太田さんに無理矢理韓国ドラマを見せられたことを思い出して私は笑った。



「なんで笑ってるの?」


「ううん、なんでもない。ジェネレーションギャップだと思って。」



いつの間にか夕日は姿を消していた。


オレンジ色の残像が薄く空に残るだけだ。