「……負けた」

「負け?」

「それ俺が言おうと思ってた」

「…………」

「でもいいや、負けでも」


ハルセはあたしの目を見つめて、


「セナノが笑ってくれたし」


ふっと優しく微笑んで、そう言った。



――あ。


あたしはふと思い出す。

……そういえば、あたしがハルセを好きになった理由。

これだった。

高校の時、席が隣になって。

歴史の教科書にハルセが落書きしてるの見つけて、あたしが思わず笑ってしまった時。

驚いたようにあたしを見たハルセが、


『……笑った顔、初めて見た』


“そっちの方がいいよ”


って、微笑んでくれた、あの瞬間。


……あ、この人、すごく綺麗な心してる。


なんて、その微笑みをみた時、思った。

全然笑わない人だったハルセが笑った、あの瞬間。

この人は絶対、誰よりも素敵な人だと思った。

だから好きになった。

もしもあの時、ハルセも同じようなことを思ってくれていたなら。

同じようなことを思ってくれたから、あたしが笑わなくなったことを気にしてくれていたんだとしたら。

あたしは今、死んでも悔いはないかもしれない。

ううん、嘘だ。

絶対に、悔いはない。


……なんて。