事実、あたしはハルセに一方的に怒って、一方的に飛び出して来ただけで、一方的にネガティブ思考を膨らませて、勝手に泣いてただけだから。

あたしが黙ってプリンの焼き目を見下ろしてうつむいていると、トーヤは微かに笑みを漏らした。


「あのさ、セナノちゃん」

「……はい」

「イイコト教えてあげようか」

「……いいこと?」

「そ。イイコト」


顔を上げてトーヤを見ると、彼はスプーンをプリンの上でくるくる揺らすように回しながら、あたしを見た。

その瞳は、何故か楽しそうな色を映していて。


「逆もあるんだよ」

「逆?」

「うん、逆。名所の話を聞いて、予想を膨らませて、期待外れになることの、逆」

「…………」

「予想を膨らませて、その期待を“いい意味”で覆すものが存在していること」

「覆す……」

「そういう時、“わからないことをわかったように考えてる自分がバカだった”って思う」

「…………」

「たとえば」


トーヤはスプーンをくるりと反転させ、掬う方を持つと、テーブルに置いたままだった金鱗湖の写真を、持ち手の先端でトントンと叩いた。



「例えば、このなんでもないような“箱”が、“ビックリ箱”だったら?」



思わず瞬きした。