「じゃあ、周りに何かあるんですか?」

「周り?えーっと、店があった」

「…………。それだけ?」

「そう、それだけ」

「…………。どうして行ったんですか?」


心の底から気になった。

ここに行かなきゃならない理由でもあったのかと思った。

だけど、トーヤはさらっと、


「行こうと思ったから」


普通すぎて理由にもならないことを当然のように答えた。


「はい?」

「俺ね、ガイドブックとか見ないで旅すんの。その土地の人に“名所とかありますか?”って聞きながら旅したりすんの」

「はあ……」

「で、大分のその土地に行ったとき、聞いた名所が金鱗湖だったわけ」

「…………」

「いやね?最初は俺も綺麗で大きな湖かと思ってたさ。金色の鯉でも泳いでる湖だろうって。でも実際、行ってみたらそんなもん。予想って結構あてにならないって、ね」


ニッと笑ってから、束ねた写真を床に置くトーヤ。

彼がテーブルの上に置いたプリンの蓋を開けるのを見て、あたしもプリンを思い出して慌てて蓋を開けた。

焼きプリンの焦げた部分にスプーンを挿すあたしに、トーヤが続ける。