そんなわけで、“これって浮気に入るのかどうか”と自問自答を繰り返しながら、でも引き返すこともできなくて、トーヤの後ろをついて行くこと数十分。

先を歩いていたトーヤが立ち止まったのは、とあるアパートの前。

見た限り、おんぼろじゃないのはたしか。

でもどこにでもある、普通のアパートだ。


「ここ。ここの一番上の一番端が俺の部屋ね」


言いながら、トーヤは階段を上っていく。

あたしもそれについて階段を上がる。

そして開けられた一番上の、一番端のドアの向こうは、


「……何もなくないですか?」


ほぼ空き家と言っても過言じゃない状態だった。

家具がほとんどない。

置いてある家具と言えるものは、何かよくわからない紙切れがたくさん乗った小さなテーブルと、スタンド電気。

それくらい。

あたしはしばらく部屋の入口前で立ち止まって、室内をぐるりと見渡し続ける。

どこをどう見ても、他に家具らしきものが見当たらない。

強いて言えば、大きめのリュックとかバッグがあるくらいだ。

先に部屋の中に入っていたトーヤが、ずっと入り口に突っ立っているあたしの方を向いて首をかしげる。


「セナノちゃん?」

「……あの、ホントにここに住んでるんですか?」

「うん、住んでる」

「ホントに?」

「ホントホント。俺嘘つかない」

「でも家具が見当たらないですよ」

「旅人な俺に家具なんて必要ないのさ」

「はあ…………。っていうか、それ家もいらないんじゃないでしょうか」

「まあね。今回はちょっとここに長居するから」

「そうなんですか……」