「だって、普通に考えてみてくださいよ。あたしはたしかに、彼氏とケンカして家飛び出してきたわけですけど、でも別れたつもりじゃないですし……」
「うんうん」
「だから、トーヤさんの家に行くのはダメだと思う、んですけど……」
「うん、なにゆえ?」
どこまで理解力に乏しいんだろうかこの男は。
普通わからないかな。
あたしが“浮気的な事態になるからムリです”って断っていることがわからないかな。
やっぱりトーヤは変人なんだと思う。
変人っていうか、思いっきりマイペース。
でも、そのペースに他人を巻き込むことがとてつもなく、上手い人。
「まあ、セナノちゃんが何を言いたいかはとってもわかるんだけどね」
「はあ……」
「でもたぶん、セナノちゃんが考えてることには当てはまらないと思う」
「…………?」
「俺には下心がない」
何を根拠に。
「真ん中の心つまり愛しかない」
キケンすぎる。
「ってわけなので、大丈夫大丈夫」
「タピオカジュースごちそうさまでした。帰ります」
「お兄さん今とっても傷ついた」
そんな愉快そうな声色で言われても困る。
立ち上がって帰ろうとしたあたしは、けれど足が動かない。
“帰ります”なんて勢いで言っちゃったけど、実際帰ろうとしたら足が動いてくれない。
帰りたくない。