ハルセの家に来る準備はできていたはずなのに、家を出ようとした途端にサンダルのヒール折れちゃうし。

電車の中で足踏まれるし、改札機になんでか引っかかっちゃうし、階段で転びそうになったし。

オマケに、ハルセとケンカしちゃったし。

もう、絶対、厄日だ。

そうとしか思えない。


……っていうか、そう思わないとどうしようもない。

厄日だって思ってないと、ホントに泣いてしまいそうだ。

だから黙ってジュースを飲んでいるというのに、


「……まあ、ムリして話さなくても、セナノちゃんの気が済むまで俺はここに居るけどね」


隣の変人紳士のペテン師(仮)は、優しい口調でそんなことを言う。

居られても困る。

あたしの気が済むまで、なんていつになるかわからないっていうのに。

1人にしておいてくれる方がいい。


……って、思うのに。

どういうわけか、あたしの視界は霞み始める。

ゆらゆらと揺れ始めた世界。

くそう。

泣くな、あたし。

あたしは思わず、ストローを噛んだ。

出会ったばかりでしかも変人紳士でペテン師(仮)なヤツの前で、泣いてたまるか。

奥歯を噛んで堪えるのに、溜まった涙は瞳から零れて、ジュースの蓋にパタリと音を立てて落ちた。

トーヤは絶対、気づいてる。

あたしが泣いてるって、気づいてる。

なのに、何も言ってこない。

何も言わないのに、静かに頭に乗せられた手のあたたかさに、更に涙が溢れた。


ホント、今日は厄日だ。

さっき名前を知ったような人に、泣き顔を見られるなんて。

心の底から、サイアクだ。

だけど涙は止まってくれなくて、あたしはそのまま、ずっと泣き続けた。

トーヤは、ホントにあたしの気が済むまで、ずっと隣に居てくれた。