さかのぼることは、去年の春。

「彼女にプレゼントする結婚指輪を探しているんですが」

「でしたらこちらはいかがでしょう?

少し値段はつきますが、メッセージも入れられますよ?」

沼波良介(ヌナミリョウスケ)、34歳。

職業は『五十嵐宝石店』の店員。

「こちらは誕生石がついたリングとなっております」

店の名前が有名どうこうではなく、ただ宝石に興味があったから就職しただけと言う、そんな理由だ。

「ありがとうございます。

またお越しくださいませ」

丁寧に頭を下げてお客を見送る。