『華穂‼︎』
大きな声で呼ばれてビクつく。
その瞬間、力いっぱい抱きしめられた。
「いやだ‼︎こないで‼︎はなして‼︎
あっちいって‼︎」
幼い子供が駄々をこねるように
離してもらおうともがく。
『ごめん…ごめん…。』
耳元で呟かれた謝罪の言葉。
「こ…うくん?」
ようやく我に変える。
それでもまだ、体の震えは止まらない。
「大丈夫だから。あたしは強いから。
もう離して?もう大丈夫。」
洸くんに向けた言葉。
それはいつもあたしが怖い体験をした
ときに自分に言い聞かせていたもの。
だから離して?
そう言ったのは本心。
怖いという感情を泣くことで消化しないといつまでも震えが止まらないから。
1人じゃないと泣けないから。
それなのに。
『我慢せずに、ここで泣け。
俺が受け止める。』
それだけいうと、また強く抱きしめる。
まるであたしの存在を
確かめるかのように。
洸くんの大きな手があたしの右手首を
つかむ。
洸くんが信じてくれなくて
それでいて、理想を押し付けられて
理想がとても遠くて。
自分が許せなくてリストカットを
繰り返したせいで増えた手首の傷。


