「…佐々木、…亜矢だっけ?…やめなよ」
後ろから聞こえたその声にあたしはビクッと体を奮わせる。
その声は、予想もしてなかった声。
姿を見なくとも、誰だかわかってしまう。
だけど、何で?
どうしてここにいるの?
小さな嬉しさと同時に、そう思ってしまうあたしの心。
「…橘君…」
亜矢と呼ばれた泣いていた女の子はゆっくりその大きな瞳を開けながらそう呟いた。
「…ひかり、どいてろ」
「れ、お…君…?」
玲皇君はあたしの前に立って、その瞳を鋭く刺すように佐々木さんを睨む。
「…橘君も騙されるんだよ?」
「何が」
「その女、橘君のこと好きじゃないんだよ」
「分かってる」
その答えを聞いて、ドキッとするあたし。
本当のことなのに、何でまたあたしの胸はポッカリと穴が開いたように寂しくなるの?
そして全てのことに即答する玲皇君に、佐々木さんはすこし怯む。
「じゃあ…どうしてっ…!」
「もういーから。早く消えてよ」
「でもっ…」
「ウザい」
「…!!…ひどいっ…!」
佐々木さんは更に大粒の涙を零しながら、取り巻きの女の子達と教室を去っていく。
そして、あたしと玲皇君のいる教室はまた静けさを取り戻す。
「…玲皇君、何でここに…」
ポツリとあたしから出た言葉。
その声は嫌でも静かな教室の中に響き渡る。
「…見つけちゃだめなの?」
「…」
また。まただ。
あの玲皇君の寂しくて辛そうな瞳。
さっきのあの鋭い瞳とは大違い。
ううん、いつものあの瞳ともまったく似つかない。
その瞳の意味は一体何を意味してるのかな。
あたし、どっちの玲皇君を信じればいいのかもうわかんないよ…。
そうしてる間に、玲皇君はあたしの前の机の椅子に腰掛けた。

