昨日先輩から貰ったスペアキーをポケットの中で握りしめる。
たしか、こっちで合ってると思うんだけど…。
先輩が朝に教えてくれた道を頭の中で反復しながら歩く。スペアキーに申し訳程度に付けられたら鈴が歩く度にちりん、ちりんと鳴る。
なんとか迷うことなく家にたどり着いた頃には、手に鉄臭い匂いが付いていた。
「…ただいま、」
誰も居ないのを確認して、呟いてみる。
久しぶりに言った。
気恥ずかしくなるのをかき消すように、とりあえず電気を付けて制服を脱ぐ。
「ただいまー」
「、っおかえり!」
「元気いいな」
くすっと笑った顔がやけに格好良くて、自分でも良くわからないけれどいらいらした。
「なんで先輩こんな早く帰ってきてるんですか。受験生でしょう?講習は?」
「受けてない。受ける必要無いし」
「へー、さすが。主席サマですもんね」
あ、いまの言い方まずかった。
どくりどくりと心臓が脈打つ。
「まぁな。俺には必要ないからさ」
本当に嫌味なく、あっけらかんと言われてしまい、肩透かしを食らう。
「で、飯なに食いたい?」
こいつは、優しいのか馬鹿なのか。
「…うまいもの」
「はいよ」
背を向けた先輩に安心して、深く息を吐いた。