「…ほんと、意味わかんないんですけど」


 風呂から上がると、きちんと俺用の着替えが置いてあり、わけがわからないが泣きそうになった。

「お前、食えないものってある?」

「え、特にないっすけど…」

「了解」


 俺のメシの残りで悪いけど、なんて言って出してきたのはミートソーススパゲティ。更に細かく言うと、サラダとスープも付いている。胃がきゅうっと締まることで、朝から何も食っていないことを思い出した。


「…これ、食ってもいいんですか…?」

「どうぞ」

「…いただき、ます」

「召し上がれ」


 朱色のソースを絡めたパスタをフォークに巻きつけて、口へ運ぶ。
 うまい。
 うまい。滅茶苦茶うまい。ゆっくりと噛んでいると、不意に今日あったことが思い出されてきて、気付いたときにはボロボロと涙を零していた。

「、せんぱ、っ…」


 先輩は、急に泣き出した俺に対して何も言わないで、ただ黙っていた。

「…今日、っ親父が居なくなって、…たぶんっ、女と一緒に出てって…、アパート、出てかなきゃいけなくて、」

「うん」

「…もう、しにたい…っ」


 思わず零れでた本音。親しくもないような人間に何言ってんだ。馬鹿みてえ。


「…じゃあ、ここに住めばいい」


 顔を上げてみたが、涙でぼやけて先輩の顔が見えない。
 なぁ、今どんな顔して言ってるんだよ。
 冗談とかで言ってるんじゃないんだよな?


「お前が嫌ならいいけど。どうする。ここに、俺と住むか?」


 みっともなくボロボロ泣きながら頷く俺の頭を、先輩がくしゃりと撫でたりなんかするから、また涙が止まらなくなった。