やはり、と言うかなんというか。

 押しても引いても開かないドアに見切りをつけ、どうしようかと思いを馳せる。
 ぽっかりと四角に切り取られた空が恨めしい。
 屋上ならぽかぽかしてると思ったんだけど。やっぱりああいうのは漫画の中だけの話なのか。

 ぺたぺたと響く足音と、スピーカーから流れる軽快な音楽が浮いてて笑える。
 あったかくて寝心地のいいところ、というとやはりいつもの所か。屋上で寝るのって、高校生っぽくていいと思ったんだけど。現実はそうそう甘くないようだ。


「おじゃましまーす」

 形式的な言葉は、扉の安っぽい音に紛れてほとんど聞こえなかっただろうが、問題はないようだ。

 保健室の平岡はよく持ち場から居なくなる、というのはここの常連なら誰でも知っている。今日も例外ではなかった。どうせタバコでも吸いに行ったんだろう。

 3つ並んだベッド。その窓際のひとつに寝転ぶ。ぽかぽかとした陽気が心地よい。真っ白いシーツの上に投げ出された細く青白い腕を見るのが嫌で意図的に瞼を閉じる。


 からり。


 涼しげで、どこか品のある音。入り口に背を向けてはいたが、誰が入ってきたかはすぐにわかった。

三浦 葛菜(ミウラ カサイ)。

 変わった名前と目立つ容姿のせいで、生徒のほとんどが知っているという保険委員長サマだ。


「一年。ベッド使うのは別にいいけど、名前書いて」


 ぺらい藁半紙を挟んだ水色のファイルをひらひらと振る。


「嫌ですよ。それ、書いたら担任に報告されるじゃないすか。めんどいです」

「あ、そ」


 毎度のことながら諦めが早すぎる。これが委員長でいいのだろうか。それ以前の問題として、この男以外の保健委員を見たことがないのだが、本当に大丈夫なのだろうか。


「今日早いですね」

「飯食おうと思ってさ。つーか、お前飯食ったのか? 寝てばっかだと成長しねーぞ」


 うっせえ。必要以上に尖った声になりそうで、誤魔化すように淡い緑色をしたカーテンを閉めた。