いきなり、「今日からお兄ちゃんだ」といわれた僕は嬉しさとかそんな感情は湧いてこず、その小さな生き物に

ただただ戸惑ったことを覚えている。




両親はその子に、“みゆ”と名付けた。





みゆは両親によく可愛がられた。






いや、


実際には生まれたての赤子に両親が手を焼いていただけなのだが、一切構ってもらえなかった僕から見れば、妹が可愛がられているように見えるには十分すぎる光景だった。




けれど、その光景もつかの間、





両親は妹がハイハイできるくらいに成長すると、僕と妹二人を取り残して仕事に出かけてしまうようになった。






「みゆ…」






下っ足らずな声で妹を呼ぶと、みゆは玩具をいじっていた手をとめて、僕の方に一生懸命のハイハイで歩み寄る。






その小さな手をきゅ、と握ると思いのほか強い力で握り返されて、驚いたのを覚えている。







その日から、ただひたすら両親の帰りを待つときの、



あの虚しさと孤独感をみゆがいくらか埋めてくれた。









いつしかみゆは、僕にとってかけがえのない大切な存在になっていた。






両親よりも、







・・・誰よりも。