今思えば、僕は生れた時すら、両親にあまり歓迎されていなかったのかもしれない。





父は仕事でほとんど家にいなく、たまに夜遅く帰ってくるとよく階下から母との口論の声が聞こえた。



僕はそれを聞こえないふりして、ベッドにもぐって毎晩耳をふさいでいた。





派手な化粧をした母は「仕事だから」と言って僕を置いてでかけることがほとんどだった。




20代後半の母が早朝から、化粧をして着飾って…本当に仕事だったろうか、




当時の幼い僕ならば母の言葉を何の疑いもなく信じたが。







当時5歳だった僕は、保育所にもいかせてもらえず一人で絵本を捲る格好をしながら母の帰りを今か今かと待っていた。






ずっとずっとそんな日々が繰り返されて、「さびしい」とか「甘えたい」とか言う感情を抑えるのにも、いつのまにか慣れていた。









ある日、僕が6歳になった歳の冬の事。





母が女の子を出産した。





それは父と母の間の子だったのだろうか。





今になってそんな思考が浮かんで、僕は咄嗟に考えるのをやめた。








ただその時、父が僕に言った言葉。



「今日からお兄ちゃんだぞ」






それだけが、父と交わした唯一家族らしい言葉だったのかもしれない。