ピローン
と音が鳴り、ドアが開く

いつも通る中央通りの桜並木も、学校前に立ち寄るこのコンビにも、今日は違う感じ

あたしは、木下育実、今日から高3です

部活の朝練がある春は、ここに着くのもものすごく早い

早起きがめっちゃ苦手やった でも、あなたに出会ってから朝が来るのが楽しみになったんよ?





「おはよッはーちゃん。今日始業式なん?」コンビニでバイトしてる田中慎也君
茶色がかった髪をいじりながら笑顔で話しかけてくれる。あたしが浮かない顔してたらいつもいつもなぐさめてくれる、笑ってたら一緒に喜んでくれる。

顔はめっちゃストライクやし、言う事なしの理想の人

毎日来てるから、仲良くなった。 

「今日は、梅とオムライスおにぎりにしとく?」早い時間だから誰も来ないのか、慎也君は暇そうに目をこすりながら言う

「んーっ!!んじゃあそうしとくわあ!」

こーやって毎日慎也君と話せることに、こんなにどきどきするのは…

やっぱり慎也君が好きなんやと思う 
でも、この気持ちを伝えられないのには、訳がある。

これは2年生になったときに気づいたこと、慎也君の左手の薬指…

綺麗なダイヤの指輪してる。これを見るたび、切なくなる
多分これは彼女さんとの永遠の愛の印

引っ込み思案のあたしが真実を訊ける筈もない。

慎也君はあたしと3歳も離れている。だからあたしより大分大人

「進級おめでとー今日は特別に俺のおごりやで?」ニコッと笑ってあたしの手のひらにペロペロキャンディをのせた

「あたし子供じゃないよぅ?」少し膨れて見せると、俺から見たら子供、とあたしの頭を撫でる

そうだよね、やっぱり子供 恋愛対象になんてなるはずないよね

「いってら♪はーちゃん」といつもの笑顔で見送ってくれる
“はーちゃん”と呼んでくれるようになったのも、つい最近で。

人間という生き物はとても貪欲だから、一つ願いが叶うと、「アドレス知りたい」とかいろいろな欲望がまた出てくる 

自分に、自己嫌悪さえ感じる