御曹司なんてお断りっ◆


あー。
武がうるさい。

電話を左に持ち替えて、右手で武を払う。



「ごめん。
 今から行くから、待てる?」

『え?でも…
 もう、帰りますしーーー』




「昴様。先方はもうお待ちなんですよ!!」



武の神経質そうな声が廊下に響く。

『…昴さん?
 会社ですか?』

「そうだよ?」

『先方はお待ちなんですよね?』


あ。聞こえてたか。


「まぁ、そうみたいだね。
 志保が気にすることじゃないよ。
 大丈夫だから、待ってて」


しばしの沈黙の後
志保は大きくため息をついて
つぶやく。


『……昴さん…
 仕事を途中放棄までして、女のところに来るって…

 どうですか?』

「俺は会いたいけど?
 仕事の相手はいくらでもいるけど、
 志保は一人しかいないだろ?」