あー。
武がうるさい。
電話を左に持ち替えて、右手で武を払う。
「ごめん。
今から行くから、待てる?」
『え?でも…
もう、帰りますしーーー』
「昴様。先方はもうお待ちなんですよ!!」
武の神経質そうな声が廊下に響く。
『…昴さん?
会社ですか?』
「そうだよ?」
『先方はお待ちなんですよね?』
あ。聞こえてたか。
「まぁ、そうみたいだね。
志保が気にすることじゃないよ。
大丈夫だから、待ってて」
しばしの沈黙の後
志保は大きくため息をついて
つぶやく。
『……昴さん…
仕事を途中放棄までして、女のところに来るって…
どうですか?』
「俺は会いたいけど?
仕事の相手はいくらでもいるけど、
志保は一人しかいないだろ?」

