御曹司なんてお断りっ◆


黒田課長はすぐに手に袋をさげて戻ってきて
志保の机の隣の席に腰かける。

「はい。そこのコンビニのだけど。」

手渡されたサンドイッチと缶コーヒー。

「あ・・ありがとうございます。」

「いえいえ。
 ごめんね。しつこい男で。
 彼氏がいるの知ってるけど、まだ諦めきれないから
 すこしでもポイントアップしたくて。」

黒田課長は自分の分のコーヒーを開けながら
にこやかに話す。

「---。」

志保は苦笑しながらサンドイッチの封をあける。
黒田課長はまだ、建志を志保の同居している彼氏と信じている。

なんだか否定するのも面倒で、
正直、黒田課長のことまで考えている余裕は志保にはなかった。


「黒田課長・・・あの・・」

「田中さん。大丈夫。俺の自己満足のためにやってるだけだから」

そういって、黒田課長はすっと立ち上がる。
少し困ったように笑って、残りのコーヒーを飲み干す。


「実は、今から営業先に行くところだったんだ。」

じゃあ、またね。と言って
黒田課長は大きめの書類ケースを持ちあげて軽く手を挙げた。

「あ。ありがとうございましたーー」

志保は軽く頭を下げ、あげると黒田課長の後ろ姿が遠くに見えた。


もしかして、私がいたから・・・
わざわざ営業に行くのに…買ってきてくれた・・んだよね?

志保はサンドイッチを一口食べる。
黒田課長のにこやかな笑顔がふと頭によぎって、
かぁっと顔が熱くなる。