何度目かの着信に
チラッとスーツのポケットに視線を移す。

その視線に気が付いたのだろう、
彼女は冷たい視線を俺に向けた。


「・・・仕事があるなら、お帰りになったらいかがですか?」

「うん。でも俺、君に会いたかったから来たんだ。」

マジで本当。
気になってる。

でも、そろそろやばいかも。
うちの『優秀な秘書』がぶちキレるかも。
神経質そうな顔を思い出して、
心の中で、手をあわせた。

すまん。


「ね。
 名前は?」

「…」

「会社はどこ?制服から@@@コーポレーション?」

「!」

あ。当たったみたい。
正樹兄ぃすげーな。

何度目かの着信が胸ポケットで震える。




「あの… 
 お仕事があるなら
 
 早く、帰られたら?」

「うん。

 また、明日ここで会おうね?」

「はぁ?!」


「じゃ。明日ね♪」


あんまり押しても効果はないし、
さっきから、秘書がありえないくらいコールしてくるし。


とりあえず、
にっこり笑って席を立つ。

「あと、俺 昴。

 花京院 昴。
 すばるってよんで」





正樹兄ぃに「ありがと」
と、手を挙げると「あんまり迷惑かけるなよ」って
やっぱり
子ども扱いされた。
俺、もうすぐ30なんだけど。
いつまでたっても甥っ子は甥っ子か。

なーんて思いながら、

ちょっとレトロなドアを押した。


むわっとした空気が俺を包む。