ちょうど真ん中の特等席で

敦の選んだ映画を観ている。


観ている、

というよりもなんとなく

眺めているに過ぎない。


もう私には映画なんて観る

心の余裕なんてものはない。


暗闇の中、

そっと隣に座る敦へ

目を向ける。


食い入るように

スクリーンを見つめ

ストーリーにすっかり入り込み、

上映時間ギリギリで買った

ポップコーンを手にしたまま

固まっている。


敦は映画を素直に

楽しんでいるようだ。


私なんて、

そんな気持ちになれないのに。


映画館の前で交わされた会話が

私の耳について離れない。


嵐のように私たちの前に現れた

『紗和さん』の存在。


さも当然のように

私に告げた敦のもう一つの

『ユウ』という名前。


それらが私の頭の中で

渦を巻いて絡み合う。


敦にとって『紗和さん』は

どんな存在なのだろう。


そして敦のもう一つの名前

『ユウ』とは一体なんなのか。