私は家に入ると

荷物を自分の部屋の

ドア付近に置き、

すぐに母親のいる

リビングへと行く。


「ただいま、お母さん」


母親は私へ視線を向けると

微笑んで「お疲れさま」

と呟いた。


ちょうど自分の時間を

楽しんでいるようだった。


母の手には分厚い文庫本が

広げられていて、

テーブルには

淹れたてであろう

湯気が立ち上るコーヒーが

置いてある。


私はインスタントの

カフェラテを淹れてから

母親に向かい合うように座った。


「本、読んでたの?」


「ん。これ1回読破したんだけど、

 また読みたくなっちゃって」