緋と微熱と狂想曲【上】





その音に、はっとした表情を見せた皐月くんは我にでも返ったのだろうか。


血で染まった手で前髪をくしゃりと掻き上げた。



「…悪い、ちょっと俺どうかしてた。

今の、忘れて」



「……?」



“服を着替えて来る。

この女の事は後はマスターに任せるから”


呟く様にそれだけ言うと皐月くんはのろのろと此方に歩いて来た。



何か話さなきゃ、何か言わなきゃ。


そう思っても頭にはお粗末な単語ばかりが並んで、到底口に出来る程のものでは無かった。



結局、扉を通る皐月くんとすれ違っても

私は其処に立ち尽くす事しか出来無いでいた。



目の前には赤に染まった横たわる女の人、

脳裏には血に塗れた皐月くんの姿だけが焼き付いていた――。