遥加さんが去った後、私は再び扉に向き合う。
とにかく、レバーを引いてみなければ始まらない。
深めの深呼吸を二、三度繰り返した後
私はレバーをゆっくりと引いた。
扉の向こうにいる皐月くんに気が付かれない様に、そっと、静かに。
少しだけ。
20cm程の隙間から、顔を半分だけ覗かせる。
見上げると、来た時よりも暗い空に濁った様な空気が辺りを包んでいた。
そして聞こえる、声と音。
『あ、ああ…
皐月、もうやめて…っ!』
『やめて?
俺がそんな事を聞いてやめると思う?』
悲痛な声と、それを楽しむかの様に答える声。
そして、
ズズズズズズッ…
ナニカが啜られる、音。
間違い無い、皐月くんの声だ。
私は声のする方へそっと視線を移した。