「確かに君は体験したかも知れない、

だけど馨さんから聞いた話だと
皐月は君に大分生温い扱いをしているみたいだし…」



生温い扱い、って。
甘やかした扱いとでも?



「それに体験するのと見るのでは全く違うよ。

第三者の視点から見てみなよ、」



“きっと新しい発見が出来るから”


口元に笑みを含む彼は、後ろを向いて片手を挙げると元来た道を戻って行く。


彼の背中に問い掛けた。


まだ聞いて無い事が、ある。



「あの、貴方の名前は…?」


「ああ、俺?」


彼は振り返らず、答えた。



「遥加だよ、遥加(ハルカ)」



遥加、さん。



そうして私は遥加さんの姿が暗い通路の果てに見えなくなるまで目が離せずにいたのだった。