「あのっ…皐月くん」
「皐月くん?」
私の声にバーテンダーの彼は不思議そうな顔をして韻を繰り返す。
「あ、いえ、有賀くん…」
「あはは、“皐月くん”で分かるよ」
“皐月くん”では分からないかも、と思い名前を言い直した私に彼は笑った。
それならば、と私はそのまま名前を口にする。
「皐月くん、今何処にいるか御存知無いですか?
さっきまでカウンターの中から接待していたと思うんですけど…」
皐月くんがお酒を手渡していたお客さんがいる筈の椅子に目をやる。
あ、れ…?
其処には先程まで座っていたお客さんの姿も無かった。
綺麗な、女の人。
確か、アイリッシュって銘柄のお酒を頼んでいて。
皐月くんに絡む様に話し掛けていたっけ。
