俺がこのT市内で名門校と呼ばれる高校に進学したのには訳がある。本来ならここではなく県内の上位校を受験するつもりだった。両親もそれを当然と思っていたし、俺自身もそのことに何の疑問も持っていなかった。

 事実、一つ下の弟はS市の県内有数の進学校へ入学した。

 だが俺は自転車で通える市内の高校に通っている。自転車で通学したかったわけじゃないが、これはこれで便利だ。弟のように早起きしなくてもいいし、後ろに女の子を乗せることもできるという利点がある。

「はるくん、また新しい彼女になってる!」

 今日は俺の祖母の誕生会で、祖母の家に親戚が集合していた。いとこの神崎英理子が俺の姿を見つけると部屋の隅へ引っ張ってきて、早速尋問を開始した。

「今度はうちのクラスの子じゃない。でもまた本気じゃないんでしょ? そういうの、もうやめなよ。かわいそうじゃない」

 ――かわいそう……か。

「じゃあ最初に断ればよかった?」

「そりゃそうよ! 付き合ってすぐ別れるよりはマシでしょ。そんなふうに他人の心を弄ぶのやめなよ」

「弄んでるつもりはないよ。『私のこと好きじゃなくてもいいから付き合って』って言うから仕方なく付き合ってるわけだし」

「『仕方なく』って、そこがおかしいのよ!」

「でも断る理由がない」

「じゃあどうして本気になれないのよ。はるくんのやってることは結局サヤカさんに対する当て擦りじゃない!」



 ――サヤカさん……ね。