HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-

 清水くんが突然何を言い出したのかわからず戸惑った。わかるのは、おそらく彼がその女の子を好きなんだろうということ……。

「いろんな女の子と付き合ったりしたけど、俺、泣かれると冷めちゃってダメなんだよね。でも、その人の涙は特別だったな。全然知らない他人のために泣いててさ」

 ますますわけがわからない。何故そんな話を私にするの?

「まだわかんない?」

 清水くんが私の怪訝な表情を見て少し微笑んで言った。

「全然」

「高橋さん、中学生のとき、お姉さんのピアノの発表会を見に来たでしょ?」

 少し考えて頷いた。姉の発表会はもれなく見に行っている。でも、それが?

「俺もね、見に行ったことがあるんだ。あるとき小さな男の子が演奏途中でつまづいて泣き出しちゃって、一度ステージの袖に逃げちゃったんだ」

 ――……そういえばそんな場面を見たことがあったような……

 私はかすかな記憶を一生懸命手繰り寄せた。

「でも先生に励まされたんだろうね。もう一度出てきて、最初から今度は間違えずに弾き終えたんだ」

 そうだ。その子、演奏が終わるとお辞儀もしないで一目散にステージから去ったんだ。

「それを見ていた、俺の斜め前に座ってた女の子が泣いてて、びっくりしたんだ。最初はその男の子の身内なのかと思ったけど、話し声を聞いていると違ったんだよね。それで……」

 そう言って清水くんがにっこりと笑顔を見せた。そして私のほうへ手を伸ばす。



 ――な、な、何すんの!?



 清水くんの両手が私の眼鏡をつかんで無造作にはずした。

「ちょっ……と!」

「その人が涙を拭くのに眼鏡を取ったんだ」



 ――……え?

 ――それ、もしかして……



「どう? 思い出した?」



 ――嘘!?



 私は呆然と清水くんを見ていた。