HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-

 T市の図書館は新しく建て替えたばかりで外観はピカピカと輝いていた。

「こっちこっち」

 と手招きする清水くんに連れられて入り口からすぐに階段を上がり、図書館の二階と思われる場所へ来た。

 階段ホールからフロアへ足を踏み入れた私は眼鏡の奥で目を丸くした。

 中央には一階からガラス張りで吹き抜けになっているドーム状の温室らしきものが見える。その周りにはところどころにテーブルと椅子が置いてあって、これで飲み物が売っていたらちょっとしたカフェのような雰囲気だ。

「よかった。今日は空いてるね」

 そう言って清水くんは人気のないほうへ歩いていく。私も彼の後を追った。

 少し奥まったところの空いているテーブルに決めたらしく、椅子の上に鞄をドサッと置いた。

「さて、この前のテストは持ってきた?」

 椅子に座った私は清水くんの言葉に一瞬固まった。

「そんなものはもう灰になったと思う」

「えっ!?」

 隣に座っている清水くんは驚いて私をまじまじと見つめた。

 ――近すぎ!

 その視線を何秒か受け止めた私は、至近距離の清水光線に心臓をぶち抜かれたようで、ものすごい勢いでドキドキし始めてしまった。こんなに近いと心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかと心配だ。

「高橋さんって意外と大胆だね。テストとかきちんと整理して取っておくタイプかと思った」

 本当に意外そうな顔で清水くんは私をじろじろと見る。

「私はそれほど几帳面じゃないし、あんな縁起の悪いものは取っておくよりびりびりにちぎって捨てたほうがいいかと」

「びりびり……」

 清水くんは苦笑した。その顔を見ながら、この人にはあの悔しさがわからないんだろうなと少し忌々しく思った。

 私は激しく負けず嫌いなのだ。本来ならライバルの清水くんに教えてもらうなど、私のプライドが許さないはずなのに!

「じゃあ、問題集やろうか」

 清水くんは涼しい顔でそう言って、授業でも使っている副教材の問題集を出した。これが進学校で採用されるだけあって難しい問題ばかり載っている。見ただけで私の脳は拒否反応を示した。

 だがこんな機会は滅多にない。清水くんは大学も数学をやりたいと言っていたくらいだから、きっと得意なのだろう。ここは恥を忍んで教えてもらおう。