「ま、待って! 私、数学苦手なの」

 舞はとても困った顔をしていた。本当に数学が苦手らしい。奇遇だね、俺は数学が好きだけど?

「ふーん。いいこと聞いた」

 一瞬のうちに俺の頭の中にはいろいろな計画が持ち上がった。そりゃもう、いろいろと……ね。

「まぁ、ちゅーはそのうちでいいよ」

 ――まぁ、そのうち絶対してもらうけどね! 

 それじゃあ恩を売らなくっちゃ、と張り切って俺は大胆に舞の腕に自分の腕がくっつくくらい接近した。

 隣で舞がまたしても固まった。おかしくて仕方ないが、知らないふりをする。彼女には刺激が強すぎただろうか?

 でもこれ以上は逃げられまい!



 ふはははは!!



 笑いが止まらない。……いや、心の中だけでね。じゃないと俺がただの変なヤツだからさ。

 それからは頼まれもしないのに、舞の手が止まるたびノートと黒板をチェックした。俺ってめちゃくちゃ親切だな。きっと彼女も俺に感謝してるだろう。

 一瞬、弟のことが思い出された。



 ――見てろよ。俺だって……



 これから起こるはずの楽しいことを想像して、ひとり悦に入りながら、俺はいつになく充実した一日を過ごしたのだった。