春霞に君想ふ

春になったら帰ってくるから。

そう言って彼女は僕を振り返った。


あたし、春になるよ。
そうすればあたしは毎年いつでも君のところに帰ってこれるでしょう?


君は無邪気に微笑んで手を差し出した。
僕はその小さな白い手を握り、君の確かさを確かめる。
その手は冬の外気と同じくらいの温度で、体温の高い僕の手とは全く別の生き物のようだった。

約束ですよ。あたしが帰ってくる場所はここしかないんですから。

そのとき君はどんな顔で、どんな瞳で、どんな気持ちでどこを見ていたのだろう。


君がじっと僕の顔をクソ真面目な顔して見つめるから、何って聞いたら君が
流さんの瞳にはどんな風に空が映るのか見たかったっていった瞬間から、僕は世界中で君だけは失いたくないと思ったんだ。
初めて心から、ほんとうにそう思ったんだ。



春は君のために世界が作り出した季節。
全てが澄んでいて、きらきらしていて、破滅などどこにも存在しないような、この世の美しいものしか見えないような。

世界が春になったとき。
きっと僕らは完全になれるだろう。