彼女が転校してきてから一度も
見たことのない笑った顔。



息をのむほど綺麗だった。



それに今では学校で、性格悪いとか
話しかけても無視されるとか、
暴力女だ、外見だけだとか
彼女に対して好印象を持った人は
誰一人としていないだろう。




俺も好印象を持ってはいなかった。




だが、目の前にいる彼女は
どこか寂しそうで少しでも触れたら
壊れてしまうんじゃないかってくらい
に儚く見えた。










それから俺の中で岸本あん子という
一人の人間の見方が変わっていた。








しばらくして、彼女は俺に気づいた
ようで一瞬身体をびくつかせた。









「何をしている。」





彼女はさっきの話し声とは一変して、
低く通った声で喋った。





「あんた可愛いとこあんじゃん♪」




俺は遅刻寸前だということをすっかり
忘れて彼女に近づいた。