「触るなッ!!離せよッ!!

いやだいやだいやだーッ!!

あんのあんパン返せーッ!!」




俺が通り過ぎる寸前、 聞き覚えの
ある声と単語が聞こえてきた。




ふとそちらの方を見たら、人ごみの
中心で看護師さんに抑えられた
あの時の少女と目があってしまった。





―――――しまった…




何故だか嫌な予感がした。



彼女はあの時のことを覚えて
いたのか、思わぬ行動に出た。






看護師さんの隙をついてあんパン
を奪い返し、俺の方に猛ダッシュ
してきたのだ。



周りにいた人は唖然としていた
が、一番びっくりしたのは俺だった。




彼女は俺の右手にあんパンを
押し付け、耳元で小さく囁いた。






「少し預かってて。

あんパンはあんの元気の源なの!!

後で絶対貰いに行くから。」







それだけ言うと、彼女は大人しく
看護師さんのところに戻って行った。