「どこにあったん、それ?」
信くんが毒物検知機を指さしながら、野瀬班長に問うと、
「なんか、誰かがホールで拾ってカウンターに預けてたみたいやで。」
言いながら、ひとさし指を立て、「一本ちょうだい」と言いたそうに野瀬班長がこっちに来た。
「ふーん。」
あまり関心がなさそうに信くんが答えた。

その前方では、「何これ?ほんまに毒物を検知できんのかなー?」
太ちゃんが不思議そうな顔をしながら両手で毒物検知機を持って凝視してた。
その隣では身を乗り出して地ー坊と生駒さんが、「貸して、貸して!」と言い、
金谷が、「まあ、まあ、あわてなさんな。」と言いながらも、視線の先では毒物検知機をロックオンしていた。

俺ももちろん気になって仕方なかったので、
「太ちゃん貸して。」と言おうと思った瞬間高くんが、
「その真ん中のボタン何?」と言って太ちゃんから毒物検知機を取り上げた。

「おい、高…」
「高!あんた取らんときーな!」
太ちゃんが言おうとしたのをかき消すかの様に地ー坊が怒鳴った。
そんなん関係ないと言った感じで高くんの指はすでにボタンに置かれてた。
「押したん?」思わず俺が聞くと、
「押してません。」と言いながら高くんは、ただ一つ設置された赤いボタンを見つめていた。
おそらくみんなが、「奴は押す。」と、とっさに思ったと思う。
「高!いらん事すんな!もう時間過ぎてるぞ!みんなも!」
珍しく信くんが吠えて、高くんはポイっと毒物検知機をテーブルに投げてサッと休憩所から出て行った。
そして、つられる様にみんな休憩所から出て行った。
この時、誰が思っただろう?あの機械を今日使う事になるなんて?
誰が予想しただろう?あの機械を使わなくてはならない出来事が起こるなんて…。

「おはようございまーす!遅番入ります!」