遥斗のお母さんはそう言うと、真琴の前からどこかに行ってしまった。
真琴は不思議に思い、遥斗のお母さんが戻ってくるのを待っていた。
それから、数分してから遥斗のお母さんは手に一通の手紙を持って戻ってきた。

「これ、遥斗から預かっていたの。このまま、渡しそびれるところだったわ。」
 
遥斗のお母さんはそう言いながら真琴の前に手紙を差し出した。
そこには、遥斗の字で“宮崎真琴へ”と書かれていた。真琴は戸惑いながらその手紙を受け取った。

「お礼を言いたかったの。ずっと言いたかったけど、言うタイミングがなくてねぇ。ありがとう…。遥斗は小さい頃から体が悪くてねぇ、主治医に長く生きられないって言われ続けてきたの。だから、何をするにも投げありでね。私も正直言って遥斗にどう接すればいいかわからなかったの。でも、一月に入ってからの遥斗は変わったわ。今まで学校もつまらなさそうにしていたのに毎日行くようになって、笑うようになったの。はっきり言って遥斗の笑った顔を見るのなんて何年ぶりかしらって思ったわ。少しずつ希望が見えてきたと思ったの。楽しそうな遥斗を見ていると奇跡が起こるのではないかって…でも、現実はそう上手くいかないものねぇ。二月に入る前に風邪を引いてね。そのまま入院して……そのまま逝っちゃった。…でも、あの子息を引き取るまで笑っていたのよ。何かを思い出しながら笑ってた。多分、あなたたちと過ごした日々を思い返していたんでしょうね。」
 
遥斗のお母さんはそう言うと、真琴に頭を下げて、ありがとう、と言った。
 
遥斗の家から出ると静かに雪が降っていた。
 
真琴はその雪を見ながら最後に見た寂しそうな目をした遥斗を思い出した。



 あのとき、どんな気持ちだったの??
 あの“ごめん”は何の意味だったの??



真琴は答えが返ってくるはずのない質問を振り続ける雪に投げつけた。