日が沈みかけた時間帯。水桜の母親の目が覚めた。虚ろな目をしていたが俺に気付くと軽い会釈と言葉を掛けられた。言われた事も言った事もない言葉。俺は笑顔としてそれを返した。ここへ来て今まで放浪しても経験しなかったモノに沢山出会った。これからもここにいればもっと出会えるだろう。だが他人に助けられながら生きていくわけにもいかない。俺は明日にでもここを出て行こうと決心する。すると水桜の母親は俺に問う。


「すいません、気に障らなければ陽炎さんの事色々教えてくださいませんか?助けてあげられる事もあると思うんです。助けていただいたお礼として。」


俺は悩んだ。明日いなくなる人に言ってもいいのか、これ以上迷惑かけていいのか、俺のせいでまた苦しまないだろうかと。


「どうか聞かせてください。人に甘えてください。決して迷惑などと感じたりはないですから。人間は迷惑かけてこそですが、その迷惑は今の人達にすれば自然ですからね。」


俺は少し罪悪感と戸惑いを感じながらも少しずつ打ち明けていく。15分くらいが経ち言い終わる。


「…そうですか。妹さんを…火傷もそのせいで…。よく今まで、こんな街の多い中生きてこられましたね。…でも、大丈夫です。今ここにこの場所に味方がいますから。頼ってください。私を親と思って接してください。ここで一緒に暮らしませんか?水桜も喜ぶ筈です。私は九十九涼子と言います。」


「涼子さんすいません。俺は人に頼って助けられながら生きていくつもりはないんです。明日この街を出て行きます。」


俺はこの優しい2人をもう悲しませたくない一心で説得を試みる。だがそうはいかなかった。


「私達がここの人達に被害を受けたせいですか?それなら大丈夫です。この街の人々は皆さん良い方々なのできっと分かってくれます。皆さんが納得いくまで頑張ってみませんか?そうすればもっと人生楽しく生きられるはずです。」


俺は理解者が欲しいわけでも人生を楽しく過ごしたいなどと思った事はない。ただ気持ちは嬉しかった。初めてこんなに心が支えられる存在に出会ったのだ。俺は黙って頷く。



そして俺はこの時からこの街に住むことを決めた。新たな自分に出会うため、救われた命に恩を返すため─────