目を覚ますと見慣れないいつも見ていた空ではなく木で造られた大きい壁だった。それは家の天井だったと体を動かした瞬間思った。だが周りには誰もおらず、布団と俺だけが部屋にいた。横を見ると襖があり俺は重たい体を引きずりながらゆっくりとその襖を開けた。だがそこにも誰もいなかった。外を求め出てみると外もガラリと静まり返っていた。だが遠くで何か言い争っている声が聞こえ声のする方を暫く歩いていると人集りがあった。俺は服に付いたフードを被りその人集りに近づいていった。するとその人集りの真ん中で蹴ったり殴られたりしている2人の姿が見えた。俺は目を疑った。昨日声をかけてくれた水桜がそこにいたのだ。俺は頭より言葉よりも真っ先に体が動き出した。


「み…水桜!…っ…どけ!止めろ!…っ」


人を掻き分け人集りの中心へと進んでいく。俺には妹が火事で苦しみ俺に助けを求めている情景と水桜が重なって見えた。中心へ辿り着くとボロボロになった水桜とその母親らしき姿が目に入り、俺は夢中で覆い被さった。全ての痛みが俺を襲った。だが昨日までの俺に比べればこんな痛みなど苦には感じなかった。俺の存在に気づいた2人は俺の顔を見上げた。


「陽炎…。うっ…なんで…いる…ゴホッゴホッケホッ…」

「陽炎さん…。庇わないで…っ…ください。あなたは…ケホッ…悪く…ないの…だか…ら…」


母親はその瞬間気を失い水桜を庇っていた力は抜けズルッと水桜の横に横たわった。必死に水桜を庇い一番の痛みを負っていたのだ。2人には痣が数え切れない程見られた。周りの人達は「余所者は出ていけ」「穢れた人間を家に招くと街が穢れる」「穢らわしい」「何とか言えよ」と口々に言いながら嘲笑っている。その言葉で俺のせいで2人ともこんなにボロボロになっていることや、俺がこの火傷を持っている限り街に合うはずがないことを思い知らされた。でも俺はそんなことよりも2人を救いたい、そんな一心だった。


「み…水桜…っ…カハッ…寝てて…クッゴホッゴホッ…いい…ぞ…うっ!ゴホッゴホッカハッ」


「陽炎!ふっうぅ…陽炎…ヒック…かげ…ろ…」


水桜に心配させないよう笑って見せた。水桜は涙を流しながらふっと意識を落とした。俺は痛みに耐えながら「よく頑張ったな」とそう言って水桜の頭を髪の毛の流れる方に沿って撫でる。俺は目の色を変え周りの人達に大声で叫ぶ。


「止めろ!俺が何をした!俺は火傷を負っているだけだろ!お前等に責められる義理はないはずだ!この2人は俺を助けてくれたんだ!何が悪い!俺から見ればお前らの方が卑怯で残酷だ!…っ」