もはや意地でしかなかった。ふ〜んと疑問たっぷりな顔で覗かれそれ以上の言葉に詰まった。

確かに前まではいた。友達という存在としては。あの時から友達と思っていた人も避けていくようになり友達は赤の他人へと成り下がった。だから友達はいない。今でさえ誰も俺を友達だとは思ってもいないだろう。


「今からあたし、お兄ちゃんのお友達ね。よろしく…えっと…」


「…陽炎…天音陽炎…。」

俺は生まれて初めて自分から名前を明かした。途端に女の子はぱぁぁっと顔が明るくなった。


「陽炎?かっこいい名前〜。あたしは水桜。九十九水桜って言うの。よろしく!陽炎!」


目の前の明るいテンションについていけないながらも俺は1つ頷き差し出してきた手に一回り以上の大きさの手を合わせた。俺は今までにない経験で少し照れくさく思ったのだが初めて人の手を暖かいと感じた。小さい時の記憶は最早残ってはいない。最近覚えている温もりは妹の冷たくなっていく手を握っていただけだったのだ。普通に生きている人間の暖かみは感じた覚えはない。すると、ありもしないことに水が頬をなぞっていく。ふと俺は手の甲でそれを拭い取ると雫が見て取れた。


「陽炎…なんで泣いてるの…?」


「なに言ってるんだ。俺は泣いてなんか…?…嘘だ…泣くことなんか忘れていた筈なのに。」


涙は溢れて止まらず俺はただ自分が泣いていると実感できずに放心状態で固まっていた。すると目の前が急に真っ暗になった。そして背中からは小さい手の感触、頭上からは水桜の声。上半身は暖かさに包まれている。


「陽炎。泣くの我慢してたの?…泣いてもいいんだよ。ママが言ってた。人は苦しい時でも悲しい時でも嬉しい時でも涙は流れるんだよって。この世に絶対泣かない人なんていないって。…我慢しちゃダメだよ、陽炎。あたしが隠すからいっぱい泣いて。ね?」


俺は堪えきれず止まらない涙を流し続けた。ただ泣き方を忘れた俺は声を押し殺し、嗚咽だけしか出なかった。暫く泣いた後疲れて眠ってしまったようだった。