───翌朝私は陽炎を呼びに行った。

「陽炎〜ご飯だよー。陽炎〜?」


私と陽炎の部屋とを繋ぐ戸を開けた。するとそこには陽炎が来る前と同じがらんとした部屋があった。布団は綺麗に畳まれ、机の上にあった本は元の本棚へと戻されていて机の上には何もなく、個々の物達が点々と置かれているだけだった。人気は勿論なく、それを感じさせる物もまるでなかった。


「陽炎?…か、陽炎が…いない…?」


私は直感で陽炎が出て行ってしまったのを感じた。もう帰って来ないということも。


「お母さん!陽炎がいない!」


それを聞いた涼子──お母さんは陽炎のいた部屋を見ると外へと走っていった。私もそれに付いて行った。もしかしたらまだその辺にいるのだと期待を込めて。でも、いるはずもなく、辺りは日の当たり始めてまだ誰も外にはいない静かな朝だった。


「陽炎さん!陽炎さん!」

「陽炎〜!どこー?」


お母さんと一緒に届くはずのない声を街中に響き渡らせた。するとその声を聞いた街の人達はぞろぞろと姿を見せ始めた。

「どうしたの?」


1人の叔母ちゃんが話しかけてきた。


「陽炎が…!陽炎が…いなくなっちゃった。」


その言葉にその人も周りの人も驚き口々にいなくなった者の名前を呼び始めた。ある者は街の境界線へ。ある者は街の隅から隅へ。またある者は屋根の上を探し始めた。ある程度探し回ったが見つかる様子もなく再び皆が元いた場所へと戻って来た。


「いた?」


「いない…。」


「こっちもだ。」


「どこに行ったんだ。」


口々に陽炎を心配する声が挙がる。そこに皆を見守る視線が1つあった。

「陽炎くん。君は皆に心配してもらっているぞ。皆が君の為に探し回っているんだ。だからいつかきっと戻ってこい。皆待っている。」


空へ向き直り同じ空の下にいる陽炎へ届けるようにそっと言い残す。


「陽炎の行きそうな場所叔父ちゃん達知らない?」


私は皆に聞いて回った。だが、当たり前のように分かると言う者はいず、首を振る人ばかりだった。