俺はもうすぐいなくなってしまうんだけどなという言葉だけは心に留めた。だがそこまでは伝わる筈もなく水桜は喜んでいた。俺はそんな水桜に最後まで伝えられず去っていくのだ。そう思うと表情まで引きつっていくのが分かった。俺はそれを見せたくなくて水桜に背を向け外に出ようと入り口へ近付いた。そしてピタッと立ち止まる。


「み…水桜。あ…ありがとな。大事にする。もし水桜がこの事を忘れたときには外すからな。覚えとけよ。」


無理に笑顔を作り水桜の頭をぽんぽんと撫で急ぎ足で外へ向かう。水桜は俺が伝えたかった本当の意味を受け取ることなく笑顔で俺に聞こえる声量で返す。


「絶対忘れない!陽炎はあたしと結婚するんだからね!陽炎こそ、覚えててよねっ!」


入り口で振り返りふっと笑みを零し一歩を踏み出した。外は心地よい日差しと賑わう街でいっぱいだった。俺は明日からの食料と水を買い求めに颯爽と出かけていった。通りすがる人達に挨拶されながら着々と買い進んでいく。そして一度荷物を置きに戻り、ある程度その荷物を布で隠すとまた出かけた。幸いさっきまでいた水桜は出かけているようで涼子さんはまだ帰っていなかった。俺はあの主犯格だった男、徹貴さんに会いに行く事にした。訪ねてみると家の中にいて俺を出迎えた。


「おぉ。陽炎くん。どうした?」


「えぇ。あの俺、この街を出て行こうと思いまして…あっ出て行こうとと言いましてもこの街が嫌いな訳ではなくて…」


「それは長いか?まぁ中に入れ。詳しく聞く。」

俺が言葉を並べて話していると聞かれてはまずい話かと気を利かし徹貴さんは俺を客間へ通すと座るように促した。


「で、嫌いな訳ではなくてなんだ。」


徹貴さんは俺の向かい側へと座り真っ直ぐ目を見て真剣な眼差しを向ける。


「俺はこの街、好きです。でもここに住んでいる人達は俺には優し過ぎるんです。みんなの親切が気持ち良く受け取れないんです。俺は災いを招く外部の者なのに普通に過ごしている、それが怖くてならないんです。だから俺、明日また旅を始めます。皆さんには沢山お世話になりました。この事俺とあなたの間だけの秘密でお願いします。」