「せっかくの日曜日なのに、面倒なことに巻き込んじゃってごめんね。
ほんとは一緒にいっぱい遊ぶはずだったのになぁー」

「…いや、仕方ないよ」


「でも朔也って冷静だよねー。
アイツと会った時の私、頭ん中真っ白で何も考えられなかった。
だけど朔也は何事も無かったかのようにアイツの横をすり抜けてさ、それで“警察に”って言って。
うわー凄いなー、って思ってた」


……冷静、か。




「…冷静というか、“早く離れなきゃ”って思っただけだよ」

「そう思えることが冷静ってことじゃない?」


「…どうかな。
たまたま上手く出られただけで、彼が俺を掴んでたら逃げられなかっただろうし、
それにナイフとかを持ってたら、確実に刺されてた。

冷静というか、逆に危険だったかもしれない」


…俺に出来る精一杯がアレだった。
アレ以外は無かったんだ。




「…龍輝たちはみんな喧嘩が強いけど、俺はそういう風には出来ない。
だからあの場では逃げる以外は浮かばなかった。
いや、逃げることしか出来なかったんだ」


…苦笑しながらそう言った俺に、マコが小さく笑う。




「私は何も出来なかったから、一緒に逃げてくれただけでもありがたいよ。

…昨日、朔也が“明日行く”って言ってくれてよかった。
△△市に住んでるって本当のことを話してよかった」


……車は街から離れ、山道へと入る。

外灯も少なく、更に暗くなった中で、マコは嬉しそうに笑う。




「偶然に偶然が重なって、私たちは今一緒に居る。
少し前まではお互いの存在すらも知らなかったのに、それでも今一緒に居る。

なんか、凄いよね」