『若恋』若恋編





ウインドウを開けてりおが樹に手を振り、樹も笑いながら片手を振った。


「車を出せ」

「あいよ」


滑るように走り出した車を樹は黙って見送ったのをバックミラーで見ていた。



「……あの男をデッサンするのか」


「え?うん。美術の宿題なの。五枚くらい描かなきゃいけなくて、あと二枚は仕方ないから想像して描くよ」

「ふーん」

「男前に描けなかったら樹に怒られるなあ」


カバンの中からスケッチブックを取り出した。
何枚か捲ると樹が頬杖ついたデッサン画と、机に足を乗せてふんぞり返ってるのと、居眠りしてるのが現れた。

一目で樹とわかる。
とても上手い絵だった。


「明日、提出だよ。間に合わなかったらどうしよう」

「で、向こうはりおの絵を描いてるわけか?」

「うん、それがね。樹ったらすごく下手くそなんだよ。全然わたしじゃないんだもの」

ぷうっと頬を膨らます。



「……幼馴染みか」

「え?」


つい口から零れ落ちた。