『若恋』若恋編





りおの声が耳に入らない。

目がりおの後ろに余裕顔で立っている樹に釘付けになる。



『近所に住む幼馴染み』

『ずっと一緒に育ってきた幼馴染み』

『呼び捨て』

『同じ時を共有してる』



少なくとも樹はりおに惚れている。



「どうした?若」

車の運転席から仁が降りてきた。
今日の迎えは仁が護衛でついてきている。


「仁さんごめんなさい、委員会長引いて遅くなっちゃって」

慌てて頭を下げるりおの髪に手を置いた。


「少しぐらい待ったっていい。それより転んだらどうする」

「ご、ごめんなさい」


ポンポン。頭をそっと引き寄せて叩く。

けれど俺の目はりおを見ている樹を見つめていた。



「……へえ、恋敵登場か」

仁が一瞬目を見張る。



「若、行くぞ」

「ああ」


仁に促されりおの背を押して車の後部座席に乗せる。


「りお、また明日な」

「うん。明日デッサン仕上げて持ってくから」

「男前に描けよ」

「ええーっ、そのまんまにしか描けないよ」