「それは屁理屈だよ。榊さんは逃げてるだけだよ」
ふたりの会話を離れたところでそっと聞く。
しゃがんで割れたカップの欠片を拾い集めていたりおが欠片で指を切った。
「い、たっ」
思わず引いた指を榊が慌てて掴みあげ、指から血が滴り落ちると思わず口に指を運び舐めた。
固まったりおの表情。
明らかに榊に向けたことのない戸惑いの色が浮かんでいた。
りおの指の血を含んだ榊のくちびるが見えた。
「………」
言葉を無くしたりおに榊がはっと我に帰る。
「すみません、りおさん」
慌てて離し、
後はわたしが拾いますのでと、背中を向けた。



