「よし、これでいい」
成田が額に浮かんだ汗を袖で拭い、手袋を外した時には彼女は静かになっていた。
頬には涙の筋がたくさんあり、その涙の跡をそっと指で辿る。
「そんな顔すんなよ。お嬢ちゃんは薬効いてるだけだ」
「………」
「奏、おまえこの娘にホレてるだろ」
「……いや、」
「嘘つけ。顔に出てるぞ」
成田が少しだけ目元を歪めた。
「いつ、こんな可愛い女ができたんだ?俺は知らなかったぞ」
脇腹を成田がつついた。
俺の女だと思ってるらしい。
「……いや、この娘はさっき出会ったばかりだ」
「あ?おまえの女じゃねえのか?」
「………」
「そうか」
悪かったな。
口を閉ざした成田が痛わしげに俺を見て肩を叩いた。
「……あまり彼女にはのめり込むなよ。おまえのいる世界は誰でもいられるってわけじゃない」
「わかって、る」
大神物産は表の顔。
俺はどっぶり裏の世界に浸ってる。