貸し切りの温泉。

他は誰もいない。


水を流す音も、りおの戸惑い震える声も、しばらくして治まった。

開けるに開けられずに立ち尽くしていた俺も息を整えて何もなかったように戸口を開けた。



下腹に手のひらを当てていたりおが気づかれないようにおろしたのが見えた。



―――俺に言わないのか?


腹の中に命が宿っているかもしれないと。


じっとりおの言葉を待ったが、目を一瞬伏せただけで何も言わなかった。




「ステキな温泉だね」


この椿館の貸し切りの露天風呂からの眺めは最高だ。

「来てよかった。奏さんとこんなにきれいな景色見られて嬉しい」


はにかんで頬を染めて笑うりおを背中から包んで抱き締めた。


「奏さん?」


抱き締めると白い花の香りがした。