どこか寂しげに目を伏せた。


「大神さま、いいですか。12時にお嬢さんを連れ出します。そのあとは一緒に、」

「わかった」


丸井が古巣の龍神会を裏切り、俺を助けてくれる。

丸井にとってそのリスクはあまりにも大きい。



穏やかに俺を見下ろす丸眼鏡の奥底の瞳からは何も感情が読み取れなくて。


ただ、この世界にはいてはいけないひとだと。

この世界から出て、田舎でのんびり畑を作って暮らすほうが幸せなんじゃないかと、そう思えた。


あの時に亡くなった娘のそばにいながら、穏やかに暮らす方が…
丸井には合っているんじゃないかと。



「丸井、この件が片付いたら田舎まで俺が送り届けるぞ」


「ああ、そうですね。そうしてもらいましょうか」






―――それが、


俺と丸井の最期の会話だった。