彼女の流す涙が重かった。
今までに感じたことがない息苦しさと胸を刺す痛みと切なさに胸が潰れていく。
どんな女が涙を流しても彼女の流す涙には敵わない。
ハンカチで縛った血だらけの手で拭こうとするのを止め、
「………」
前広から差し出されたハンカチでそっと拭いた。
「悪かった…こんなふうに巻き込んで」
巻き込んでしまったのは俺だ。浅くないケガを負わせた。
「ち、違うの…」
彼女が体に響かない細い声を発した。
「誰も何も悪くないの。……わたしが勝手に飛び出しただけだから、何も悪くないの。
わたしが勝手に、」
彼女の体に力が入った。
「あんたがいなかったら、俺は死んでた」
「?」
「あんたが俺を庇わなかったら確実にあの世行きだった」
「それは」
「あんたが俺の前で腕を広げてくれなかったら命はなかった」
「………」
沈黙が車内に落ちた。



