『若恋』若恋編






―――腕の中にいる彼女を見る。



『待って!!』


読んでいた本を投げ出して銃を持った男の前に身を投げ出した。

結った長い髪。
翻る制服のスカート。

必死で両腕を広げた彼女の横顔。



「……はじめてだ」


「若?」

榊の怪訝そうな声が。



「……見ず知らずの俺を、」

「若?」



小刻みに震える彼女を抱き抱える手に力が入る。

知らなかった感情にいきなりスイッチが入る。

俺の後ろに隠れる女はたくさんいたが、庇い飛び出してくれた女はいなかった。



「……はじめてだ」

「若?」

どうしました?

隣で榊が肩を揺さぶった。


「榊、」

「はい」

「頼み事がある」

「若、なんでしょう?」


ほっとしたように口元が緩むのが見えた。



「新しい携帯用意してくれねぇか?」

「…携帯ですか?」


そう。
こんな携帯電話はもう俺には必要ねぇ。